2015年12月29日火曜日

今年読んだ中で良かった本。



今年は読んだ冊数こそ多くないものの、多くの良書に出会えた年でした。
その中から特に良かった5冊の本をご紹介。
まずはフィクション系。

『火星の人』

(アンディ・ウィーア[著]、早川書房)

アンディ・ウィアーという新人作家のSF小説。
来年2月にこの本原作の映画が日本でも公開されるので、聞いたことがある人もいるのではないでしょうか?
ストーリーは、主人公の宇宙飛行士が火星での探査ミッション中トラブルに巻き込まれ、地球へ帰還するチームとはぐれてしまい、火星基地で一人でサバイバルをするという話。技術的な考察が丁寧で、細部まで非常によく考えられたSFとなっています。主人公は宇宙飛行士でありながらどこか砕けた性格で、明るくユニークな口調とともに主人公目線で物語が進んでいくので非常に読みやすかったです。話の展開がテンポ良く、最後までドキドキハラハラしながら一気に読み進めることができました。
とても新人とは思えない文章の上手さ。また、口語が多いながらも、自然な日本語に訳されており、海外小説にありがちな不自然さも全く感じませんでした。
今年読んだ小説の中で、間違いなくイチオシな一冊です。

この本の好きな一文

軽いネタバレになり兼ねないので割愛。
(ソル98のワトニーからの通信の最後の文。)




『有頂天家族 二代目の帰朝』


(森見登美彦[著]、幻冬舎)



少し前にアニメ化もした、有頂天家族シリーズの二作目。
森見登美彦さんが書いているので面白いのは当たり前なのですが、前作に負けず劣らずの面白さ。一応、前作の続きの世界の話なので、一作目を読んでいない方はまずそちらを読むことをお勧めします。
内容は、人に化けて人間の世界で遊ぶ下鴨家の狸と、京都の山に住む誇り高き天狗の赤玉先生、一癖も二癖もある人間達が織りなす、面白きことは良きことなり話.
笑いあり涙ありの、まさに王道な娯楽小説と言えるのではないでしょうか。アニメも素敵なので、原作とアニメどちらもオススメです。
当分先でしょうが、この後も続巻が出るらしいのでとても待ち遠しいです。

この本の好きな一文

”面白く生きる他に何もすべきことはない。
まずはそう決めつけてみれば如何であろうか。”




『モダン・タイムス』

(伊坂幸太郎[著]、講談社)

現在,映画が公開されている「グラスホッパー」や、「重力ピエロ」、「ゴールデンスランバー」など次々にヒット作を書いてきた伊坂幸太郎さんの作品。
伊坂さんは僕の大好きな作家さんで、この「モダン・タイムス」も2008年に出版されてすぐ読みました。それから、7年たち何となく今の時代になって読み返したくなって読んだのでエントリー。
内容は、病的に浮気に疑り深い妻を持つ恐妻家SEが怪しい仕事をきっかけに、大きな事件に巻き込まれていくという話。これまで紹介した2冊が読後にスッキリするのとは対照的に、この本を読んだ後は得体の知れない恐怖感というか、不意に襲いかかる暴力的な運命と言った圧倒的な力を感じます。
「モダン・タイムス」はチャップリンが資本主義を痛烈に批判した映画ですが、同じタイトルを持つこの本も現代社会への強いメッセージが隠れている気がします。
過去に人々が独裁者を求めたように、抗うことのできない、比類なき大きな力を感じたい時に読みたい本。

この本の好きな一文

”人生を楽しむには、勇気と想像力とちょっぴりのお金があればいい。”
(登場人物がチャップリンの映画「ライム・ライト」のセリフを引用。)




ここからはノンフィクション系。


『持たない幸福論』

(pha[著]、幻冬舎)

京大卒で自称”日本一有名なニート”ことphaさんの本。
多分、今年読んだ中で、最も影響を受けた本です。
今を生きるのが辛い、働きたくない、どこか自分の居場所がない、家族と上手くいっていない、家族とは上手くいっているけど何だか窮屈、なんだかこのままでは自分がダメになりそう、と言った感じでたまに頭の中が「うわぁー」っとなる人にオススメ。
人生の価値観というものは社会から押し付けられるような唯一のものでなく、もっと多様性があっても良いのではないか?というような事が書かれています。
毎日満員電車に揺られて身を粉にして働いて、お金を稼いで、家を買って、家族を養って暮らすことは素晴らしいけど。定職も伴侶も持たずにブラブラ生きて、昼間から公園でぼーっと過ごすのも素晴らしい生き方じゃないでしょうか?

この本の中の好きな一文

”たまに親しくもないのに自分の価値観を押し付けてきて「そんな生き方は間違っている」「世の中はそんなものは認めないぞ」とか言ってくる人がいるけど、そういうのはよく分からない宗教の人が「あなたの生き方は我が教の教義に反しているので死後十億年間地獄に落ちます」とか言ってくるのと同じなので、「ああ、別の宗教の人だな」と思ってほっとけばいい。”




『中の人などいない 

@NHK広報のツイートはなぜユルい?』

(NHK_PR1号[著]、新潮社)

Twitterにおける企業アカウントの草分け的な存在である@NHK_PRの中の人(1号)が書いた本。
”中の人”がどんな考えで国営放送局の非公式アカウントを作り、ツイートしてきたかという内容が書かれています。企業アカウントのハウツーや、SNSでの振る舞い方指南書なんかではなく、”中の人”のエッセイ集といった感じで気軽に読める本です。
Twitterの楽しい点、難しい点、面白い点、傷つく点など、酸いも甘いも経験した”中の人”の様々なエピソードが、ストーリー立てられて優しい語り口で進んでいきます。
人付き合いのあれこれという点では、Twitterを使っている人もそうでない人も、読めば何かしら得られるものがあるのではないでしょうか。
”中の人”が持つ独特のユルさ、ユーモアさは相手への思いやりから生まれるものであり、あのレベルまでは到底難しいものの、自分ももう少しユーモアのある人間になれたらなーと思いました。

この本の好きな一文

”お!おやつ!!おやつの時間かあ…。それってものすごくダメな感じがするぞ。マジメで堅い感じのNHK時計なのに、指している時間はおやつの時間。この微妙にずれたテイストは、もしかすると私が狙っている感じに合っているかもしれないな…。”




最後に

今回紹介した本は全てamazonの電子書籍、Kindleのフォーマットで販売されています。
リンクはハードカバーの本のページのURLをはってありますが、文庫版はKindle版はもう少しお手軽価格なのでそこから手を出すのもおすすめ。
特にKindle版は普通の本とは違って、セールでたまに半額になったりするので、欲しいものリストに突っ込んでおいて、安い時に買って、気が向いたら読んでみるといいかも。