2017年1月22日日曜日

今年読んだ中で良かった本 2016。

今年読んだ中で良かった本を紹介します。


『人間はどこまで耐えられるのか』

(フランセス アッシュクロフト [著]、河出書房)


タイトル通り、高温や低温、高圧や低圧といった環境に人間はどこまで耐えられるのかといったテーマを生理学の側面と研究の物語が記された本。

人間の限界ラインを知ることは医学的に重要なテーマであり、その昔は戦争捕虜による人体実験や生理学者が自らの体を張って実験を行い、多くの犠牲の上に研究が進んで行った生々しい話も……

そして、これらの貴重なデータと研究により、現代では高山病や潜水病、凍傷、熱中症に陥った多くの人々が生存できるようになり。人間の行動エリアが広がった。
現代人がレジャーとして安全にスカイダイビングやスキューバダイビング、冬山登山が行えるのも、この分野の研究のおかげと言えるでしょう。

また、ヒトの身体の仕組みと反応を知っておくことはサバイバルの観点でも重要ですね。
例えば船が難破して冷たい海に投げ出された場合、必死にもがき泳ごうと体をばたつかせると,体から放出される熱量が増加し、命が縮まるというようなことが書かれています。
泳いでいるうちに体が温まると考える人もいるかもしれませんが、動くことで血液循環が活発になり、体表にある暖められた水の層を崩してしまうため、低体温症まっしぐらとなってしまうらしい。

他にも、死体が死後硬直するのは、筋フィラメントをスライドさせる物質の生成が止まるからといった豆知識的な内容をはじめ、数々の遭難や事故から生還した人の話もあるため、知っておいて損はないでしょう。
というか読んでて面白い。




『暗号解読』

(サイモンシン[著]、新潮社

暗号の誕生から現代に至るまでの様々なドラマが詰まった一冊。
数々の暗号がどのような歴史的背景によって生まれ、また破られていったのかといった天才たちの頭脳バトルの様子が丁寧に書かれており、歴史における暗号の役割のあまりの大きさに驚くばかり。

暗号というとエニグマ暗号が有名で、自分も名前だけは聞いたことがあった。
この本を読めば、エニグマ暗号とはどのようなもので、何が優れており、どのようにして破られたかという話が一発で分かる。

暗号はとりわけ戦時中に大きな威力を発揮し、数々の戦況を覆してきた。そのため、暗号に関する研究は軍の最重要機密であり、暗号解読において輝かし功績を残しても公に名が出ることは無いらしい。数々の名もなき暗号解読者たちによって、今の世界が作られていると考えると感慨深いものがある。

もちろん暗号の重要性は戦時中のみならず、現代においても高まる一方。
現代のネットワーク社会は暗号技術によってここまで発達したといっても過言ではない。

例えば誰かと暗号化された通信を行う際、暗号通信を行うためには事前にお互いが暗号を解読する鍵を持っている必要がある。しかし、肝心の鍵は暗号化する前に送る必要があるため、どうすれば安全に鍵を送れるかという、鍵配送問題がつきまとう。
通信相手が隣の家の人であれば、紙に書いて手渡しもできるが、こんな方法では世界中のサーバーと日に何百何千回何万回と通信することはできない。
この問題を見事クリアする、RAS暗号を考えた3人(ロナルド・リベスト、アディ・シャミア、レオナルド・エーデルマン)は本当に天才としか思えない。

私たちが安心してネット通販ができるのも、メールやSNSを任意の人のみに送れるのも、全てRSA暗号のおかげと言えるでしょう。

また、現在、研究が進められている粒子暗号が理論上は絶対に解読できない理由についても書かれており、過去から未来にわたる、人類と暗号の進化の歴史がみっちり詰まってる。

最後に、この本で最も魅力的だったビール暗号のエピソードを紹介。
詳しく知りたい人は”ビール暗号”でググって下さい。
簡単に言うと、100年ほど前にアメリカで
「俺の財宝か?欲しけりゃくれてやる、探せ!この世の全てをそこにおいてきた!」
的な文章が公開されたと言う話。ただ、宝のありかを示す紙は暗号化されており、何人ものアメリカンドリーマーがチャレンジしたものの未だに宝は見つかっていないらしい。
徳川埋蔵金なんかと違って、この文章は自分が死んだ場合に特定の人に伝えることを意図して書かれた遺言書のようなものらしく、正しく解読できれば財宝の詳細な位置が書かれているということから多くの人の心を掴んでいるらしい。

この本は今年の読んだ中でというより、人生の中でとも言えるほどの良書でした。




「ゴールデンカムイ」

(野田サトル[著]、集英社)

以前試し読みした時は冒頭のシーンがエグくて諦めてしまったのですが、1巻を読み切った時にはすっかり虜に。
あらすじとしては、日露戦争帰りの主人公「不死身の杉本」が偶然、北海道に眠る金塊の話を耳にし、アイヌのヒロインと共に蝦夷を冒険していくという話。ギャクシーンとシリアスシーンの振れ幅が大きく、テンポも早いという、超僕好みなマンガ。
また、アイヌの文化も非常に丁寧に描写されており、荒唐無稽な設定にも関わらず、実際の蝦夷の歴史をベースに話が作られているので、妙に説得力があって引き込まれる。
夏に北海道に行った際は少し足を延ばして、余市で鰊御殿を見て鰊そばを食べるという、聖地巡礼っぽいこともしてしまった位に。
飯テロマンガとしても有名らしく、狩猟した動植物で作るアイヌの料理も珍しくて新鮮。(リスの生の脳みそを食べたりするけど)

マンガ大賞2016も受賞したそうなので、面白さはお墨付きですね。






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番外編
3冊では少ないので、今年観て面白かった映画を。


「最強のふたり」


OPでやられた。あの演出はズルい。
障害者に対してどう接すれば良いか分からない人は多いと思うけど、こういう関係は見ていてとても心地が良いなと思う。難しいけど。
明るい部分だけでなく、暗い部分もしっかり描かれており、この話が絵空事ではなく、現実との地続きとして観ることができた。




「黄金のアデーレ 名画の帰還」


態度がころころかわり、周りを振り回す面倒なおばちゃんが最高。
時折入る、おばちゃんの若かりし頃の回想シーンが素敵。
なんというか、このおばちゃん強い、カッコいい。
何の変哲もない分かり切った結末なのに、普通に泣きました。
全てを奪われてなお残るのが、その人間の価値なんだと思った。


どちらも万人が楽しめる素晴らしい映画だと思うので,是非に.

2016年9月24日土曜日

骨を見てきた。

動物の本物の骨が見られる展示会に行ってきた。

たまたまラジオでこの展示会の存在を知り、気になっていた時、
近くに行く機会があったので寄ってみました。

会場は上野駅から歩いて10分くらい、東京大学本郷キャンパスの裏に位置する文京区の施設。
建物の2階の一部屋が展示スペースとなっている。


部屋に入ると一面の骨。
もっと規模の大きなものを想像していたので少し拍子抜け。
でも、よく見ると一つ一つの存在感が強く、独特の臭いも相まって、
エネルギー密度の高い空間が形成されている。



まず入口に鎮座しているのが、アジアゾウの頭部と下アゴの骨。
骨格には詳しくないのでいまいちピンとこなかったが、
後ろのモニタに簡単な解説動画が流れており、
・ゾウの鼻には骨がない
・歯は奥歯の方からドンドン生えてくるので,薄い歯がいくつも重なっている
といった事がことが分かった。



ゾウの隣の隣にいたのがキリン。
キリンのツノ?の部分って骨があるんですね。
形が特徴的なので、すぐにキリンだと分かる。

ツノのデコボコし感じがリアルで、滅茶苦茶かっこいい。
眉間のツノ(?)も思っていたより高い。今度、動物園に行ったときは注意して見てみよう。



ライオン。
歯の形が今まで見てきた草食動物と全然違う。
牙をベースにして頭蓋骨が設計されてる感じ。



ゴリラ、オランウータンはかなりヒトに近い。
ただ、どちらも頭頂部が球形でなく、ヒダ状のパーツがある。
一見似ていたけど、よく見るとヒトとは全然違う。



一番、ヒトに近そうに見えたのがパタスザル。
写真では分かりにくいけど、握りこぶしよりも一回りほど小さい。
頭の形が綺麗。



ゾウ、キリン、ライオンとった大型で有名な動物だけでなく。
イヌ、ネコ、ハムスターといった小型動物から、イルカ、カメ、といった海の生物、
インドガピアル、マーラ、ドールといった、名前を聞いてもピンとこない動物まで、
多様な種類の骨が見られる。



もちろん、頭蓋骨以外の展示も。
こちらはケヅメリクガメの甲羅。

内側から覗くと、甲羅が背骨と一体化しているのが分かる。
この甲羅、学術的には背甲(ハイコウ)と言い、お腹側の甲羅は腹甲(フッコウ)と呼ぶらしい。
カメの甲羅と言えば、分厚くて頑丈なものを想像していましたが、
厚さは5mmくらいで、光が透けるほどの薄さ。
もちろん、種類にも寄るだろうが。



特に説明がなかったけど、たぶん肋骨。
どれも大きさは違えど、形はほぼ同じ。
スケール効果により、全長の累乗で断面積が増しているように見える。



こちらはシロサイの角。
サイの角は皮膚や爪と同じケラチンでできているので、骨ではないらしい。
何にせよ、ディテールが凄まじい。
どうやったら作れるんだこんなもの......



空を飛ぶ哺乳類であるコウモリは指と指の間に膜がある。
生きている時は、さらにこの手と尻尾も膜で繋がり、翼を形成しているらしい。
軽量化のため、同サイズの飛ばない動物と比べると、骨が恐ろしく細い。


全体的に解説が少なめ(というかほぼ無し)なので、
頭蓋骨や手足以外の骨は、どこの部位か分かりかねる。
詳しい人と一緒に行くと,より楽しめそう.


写真手前はキリンの頸椎。
壁には骨の写真が飾ってある。



やはり頭蓋骨のテーブルが一番迫力がある。



こちらはナイルワニ。
ゴツゴツとした鼻先の形が骨からもよく分かる。



あと、印象的だったのだアオウミガメ。
目の掘りが仮面のようでとにかく格好良い。

チーターのような鋭い眼光。
生前のおっとりとした顔からはとても想像できないスマートな骨格。


他にも、ペンギン、カピバラ、イルカ、ペリカン、ヘビといった
様々な動物の骨が見られる。


自分の体の中にも、こんなものが何十個も入っていると思うと不思議。


東大の獣医学者の教授が展示監督をしていることもあり、
どの骨も非常に状態が良く、また見せ方も美しく、見入ってしまった。


かつて生き物の一部であった、本物の骨の存在感はとても写真では伝わらないので、
興味のある人は是非。
11月の終わりまで開催していて、無料だし非常に空いているので、ゆっくり見られます。



イベント概要
名前:「骨を見る 骨に見られる」
期間:2016年07月08日 ~ 11月26日
時間:09:00-17:00
休館:日曜・祝日
場所:文京区教育センター
料金:無料
URL:http://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/2016honewomiru.html

2015年12月29日火曜日

今年読んだ中で良かった本。



今年は読んだ冊数こそ多くないものの、多くの良書に出会えた年でした。
その中から特に良かった5冊の本をご紹介。
まずはフィクション系。

『火星の人』

(アンディ・ウィーア[著]、早川書房)

アンディ・ウィアーという新人作家のSF小説。
来年2月にこの本原作の映画が日本でも公開されるので、聞いたことがある人もいるのではないでしょうか?
ストーリーは、主人公の宇宙飛行士が火星での探査ミッション中トラブルに巻き込まれ、地球へ帰還するチームとはぐれてしまい、火星基地で一人でサバイバルをするという話。技術的な考察が丁寧で、細部まで非常によく考えられたSFとなっています。主人公は宇宙飛行士でありながらどこか砕けた性格で、明るくユニークな口調とともに主人公目線で物語が進んでいくので非常に読みやすかったです。話の展開がテンポ良く、最後までドキドキハラハラしながら一気に読み進めることができました。
とても新人とは思えない文章の上手さ。また、口語が多いながらも、自然な日本語に訳されており、海外小説にありがちな不自然さも全く感じませんでした。
今年読んだ小説の中で、間違いなくイチオシな一冊です。

この本の好きな一文

軽いネタバレになり兼ねないので割愛。
(ソル98のワトニーからの通信の最後の文。)




『有頂天家族 二代目の帰朝』


(森見登美彦[著]、幻冬舎)



少し前にアニメ化もした、有頂天家族シリーズの二作目。
森見登美彦さんが書いているので面白いのは当たり前なのですが、前作に負けず劣らずの面白さ。一応、前作の続きの世界の話なので、一作目を読んでいない方はまずそちらを読むことをお勧めします。
内容は、人に化けて人間の世界で遊ぶ下鴨家の狸と、京都の山に住む誇り高き天狗の赤玉先生、一癖も二癖もある人間達が織りなす、面白きことは良きことなり話.
笑いあり涙ありの、まさに王道な娯楽小説と言えるのではないでしょうか。アニメも素敵なので、原作とアニメどちらもオススメです。
当分先でしょうが、この後も続巻が出るらしいのでとても待ち遠しいです。

この本の好きな一文

”面白く生きる他に何もすべきことはない。
まずはそう決めつけてみれば如何であろうか。”




『モダン・タイムス』

(伊坂幸太郎[著]、講談社)

現在,映画が公開されている「グラスホッパー」や、「重力ピエロ」、「ゴールデンスランバー」など次々にヒット作を書いてきた伊坂幸太郎さんの作品。
伊坂さんは僕の大好きな作家さんで、この「モダン・タイムス」も2008年に出版されてすぐ読みました。それから、7年たち何となく今の時代になって読み返したくなって読んだのでエントリー。
内容は、病的に浮気に疑り深い妻を持つ恐妻家SEが怪しい仕事をきっかけに、大きな事件に巻き込まれていくという話。これまで紹介した2冊が読後にスッキリするのとは対照的に、この本を読んだ後は得体の知れない恐怖感というか、不意に襲いかかる暴力的な運命と言った圧倒的な力を感じます。
「モダン・タイムス」はチャップリンが資本主義を痛烈に批判した映画ですが、同じタイトルを持つこの本も現代社会への強いメッセージが隠れている気がします。
過去に人々が独裁者を求めたように、抗うことのできない、比類なき大きな力を感じたい時に読みたい本。

この本の好きな一文

”人生を楽しむには、勇気と想像力とちょっぴりのお金があればいい。”
(登場人物がチャップリンの映画「ライム・ライト」のセリフを引用。)




ここからはノンフィクション系。


『持たない幸福論』

(pha[著]、幻冬舎)

京大卒で自称”日本一有名なニート”ことphaさんの本。
多分、今年読んだ中で、最も影響を受けた本です。
今を生きるのが辛い、働きたくない、どこか自分の居場所がない、家族と上手くいっていない、家族とは上手くいっているけど何だか窮屈、なんだかこのままでは自分がダメになりそう、と言った感じでたまに頭の中が「うわぁー」っとなる人にオススメ。
人生の価値観というものは社会から押し付けられるような唯一のものでなく、もっと多様性があっても良いのではないか?というような事が書かれています。
毎日満員電車に揺られて身を粉にして働いて、お金を稼いで、家を買って、家族を養って暮らすことは素晴らしいけど。定職も伴侶も持たずにブラブラ生きて、昼間から公園でぼーっと過ごすのも素晴らしい生き方じゃないでしょうか?

この本の中の好きな一文

”たまに親しくもないのに自分の価値観を押し付けてきて「そんな生き方は間違っている」「世の中はそんなものは認めないぞ」とか言ってくる人がいるけど、そういうのはよく分からない宗教の人が「あなたの生き方は我が教の教義に反しているので死後十億年間地獄に落ちます」とか言ってくるのと同じなので、「ああ、別の宗教の人だな」と思ってほっとけばいい。”




『中の人などいない 

@NHK広報のツイートはなぜユルい?』

(NHK_PR1号[著]、新潮社)

Twitterにおける企業アカウントの草分け的な存在である@NHK_PRの中の人(1号)が書いた本。
”中の人”がどんな考えで国営放送局の非公式アカウントを作り、ツイートしてきたかという内容が書かれています。企業アカウントのハウツーや、SNSでの振る舞い方指南書なんかではなく、”中の人”のエッセイ集といった感じで気軽に読める本です。
Twitterの楽しい点、難しい点、面白い点、傷つく点など、酸いも甘いも経験した”中の人”の様々なエピソードが、ストーリー立てられて優しい語り口で進んでいきます。
人付き合いのあれこれという点では、Twitterを使っている人もそうでない人も、読めば何かしら得られるものがあるのではないでしょうか。
”中の人”が持つ独特のユルさ、ユーモアさは相手への思いやりから生まれるものであり、あのレベルまでは到底難しいものの、自分ももう少しユーモアのある人間になれたらなーと思いました。

この本の好きな一文

”お!おやつ!!おやつの時間かあ…。それってものすごくダメな感じがするぞ。マジメで堅い感じのNHK時計なのに、指している時間はおやつの時間。この微妙にずれたテイストは、もしかすると私が狙っている感じに合っているかもしれないな…。”




最後に

今回紹介した本は全てamazonの電子書籍、Kindleのフォーマットで販売されています。
リンクはハードカバーの本のページのURLをはってありますが、文庫版はKindle版はもう少しお手軽価格なのでそこから手を出すのもおすすめ。
特にKindle版は普通の本とは違って、セールでたまに半額になったりするので、欲しいものリストに突っ込んでおいて、安い時に買って、気が向いたら読んでみるといいかも。